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問題は、多くつくりすぎてはむだになるということだ。
逆にいえば、他のだれかが自分のつくりだすものを欲しがっているのを知っていて、商品を生産することがポイントである。 しかし、ここで問題が発生する。

パン屋がっくりだしたパンと、洋服匡がつくった洋服、どちらも必要なものだ。 でも入手するには、そのための場がなければならない。
それが市場になる。 経済学では「市場」をシジヨウと読むが、ここではむしろイチパと考えたほうがいい。
現代でも、イスラム圏や発展途上国で多く見られる、広場に屋台を並べたイチパである。 でもこのイチパがあればいいのか、というとそうでもない。
ここでパン屋が洋服を手にするには、自分が生産して持っているパンと、洋服屋が生産した洋服を交換しなげればいけない。 このためには基準がいるのだ。
それがおたがいの商品の価格だろうし、そこで必要になってくるものは貨幣だ。 さて、ここまでは経済学の世界である。
原始的な市場ではこれで問題はなかった。 つまり、おたがいに欲しいものがわかりそれを市場で交換すればよかった。
しかし、現代、いや現代ほど複雑でなくても、少し考えれば、おたがいに売りたいものの交換がこんなに簡単にいかないことはわかると思う。 売り買いのタイミングもあるし、場所もあるだろう。
場合によってはだれが何を必要とするかもわからないことだってある。 ではどうすればいいのだろうか。
何が問題なのだろうか。 商品を生産から消費にもちこむ機能が必要ではないだろうか。
じつはこの機能がマーケティングになる。 となると、マーケティングは現代のように分業や専門化がすすんだ世界では欠くことができないものといえる。
ここまでで、大まかにマーケティングが何かがわかってもらえたと思う。 ではさらに深く理解をしていただくために、次にマーケティングの定義を考えてみよう。

マーケティングは米国でさかんだ。 アメリカ・マーケティング協会(AMA)というのがメジャーな団体であるが、ここでも定義の移り変わりがある。
これは本章の最初の疑問である、現代の消費低迷の話に関連している。 AMAの一九六〇年の定義は、「マーケティングは、生産者から消費者または使用者への商品およびサービスの流れの方向を定める企業活動の遂行である」というものだ。
しかし、一九八五年にAMAは定義を「マーケティングは、個人や組織の目的を満たす諸交換を生み出すために、アイデア、商品、サービスのコンセプト、価格付け、販売促進、流通を計画し、実行する過程である」と変えている。 古い定義は、売り手が買い手の購買意欲を刺激するという、一方的な市場操作に視点がある。
「パプロフの犬」というものを心理や医療関係者の方は知っていると思う。 残酷だが犬の腹に穴をあけて胃液を取り出すようにしておくと、ベルを鳴らしながら食べ物を見せたときに胃液が分泌されるが、これを何度もくりかえすと、最後には食べ物がなくても、ベルを鳴らしただけでも胃液が分泌されるようになる。
一九六〇年の定義では、買い手は条件反射の「パプロフの犬」のごとく主体性はなく、売り手・買い手の交換関係はテイク・アンド・テイクという一回かぎりの短期的なものである、と考えているのに対し、新定義は、売り手と買い手は双方的な関係で、買い手は製品購入に対して主体性をもち、長期的かつ継続的なギプ・アンド・テイクの関係でいると考えている点が両者の大きなちがいである。 ここで、商品を生産から消費にもちこむ機能であるマーケティングの定義がなぜこのように変わったのかが重要である。

また、新定義では、マーケティングの主体者(売り手)は利潤動機で動く営利企業に限定されていない。 この定義のなかでは、マーケティングは教会・博物館・学校・政治家・社会福祉団体など非営利組織や個人の価値目標達成に向けた交換問題一般としてとらえることもでき、その扱う対象も形のある有形財だけでなく、形のない無形財である各種のサービスや社会的アイデア(たとえば家族計画の重要性や禁煙運動など)にも及ぶ。
いいかえればかなり拡張性をもったことも大きなちがいとしてあげられる。 さらに、結果だけでなく過程に注目している点も覚えておいてほしい。
ここが経済学とのちがいとして強調されることもある。 マーケティング学者はこのあたりを、どう考えているのだろうか。
米国のマーケティング学者で、おそらく日本でもっとも有名な学者はフィリップ・コトラーであ48マーケティングの教祖的な教授である彼は、シカゴにあるノースウエスタン大学ビジネススクールの教授だが、「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」と考えている。 一九八五年のAMAの定義に似ているのに気づかれると思う。
ここでも過程が強調されている。 日本にも米国と同じようにマーケティング協会はある。
一九九〇年にJMA(日本マーケティング協会)が発表した新しい定義によると、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行なう市場創造のための総合的活動である」とのことだ。 さて、話を消費の低迷に戻そう。
昔は生産されれば、マーケティング機能によって商品が売れた。 一九六〇年のAMA定義のように、マーケティング担当者は広告をしたりして、消費者に購買意欲をおこさせて、購入させたわけだ。
一つ例を考えたい。 自動車業界のはしりは、T型フォードである。
歴史はたかだか一O〇年で、その前は馬車の時代だった。 さてフォード祉のつくりだしたT型フォードであるが、そのころは大量生産・大量販売の時代で、製品に個性はなかった。
みな自動車に乗りたかった。 格好なんてどうでもよかったともいえる。

みな同じT型でよかった。 だからフォード社の創業者のへンリー・フォードは、こんなすごいことを言っている。
「だれでも欲しい色の車を手に入れることができる、ただしその色が黒であるならばの話だが」と。 でも、そんな時代は長くはつづかなかった。
その後にGM(ジェネラル・モーターズ)の時代がくる。 一九一三年にT型フォードが大量生産されるようになったころに、いかに商品を大衆に届かせるかというマーケティングが産声をあげた。
GMはそのあとにスポーティイメージの車で大成功を収める。 このように過去のパラダイムは変化していく。
その後一九三〇年代の売上げ志向のマーケティングの時代を経て、五〇年ごろからテレビを広告媒体の主役としたマーケティングがはなやかになる。 このころまでは、生産したものを、いかに消費者に認知させ、販売するかが重要だったのだ。
ここで消費者ニーズという概念を整理しておきたい。 似たようなことばにウォンツ(Z00仏師) 50がある。
ニーズは「人間の感じる欠乏状態」、ウォンツは「ニーズの表現」であり、社会的文化的な背景をもつものとされる。 もっと具体的にいえば、自分の人生で何か成しとげたいことがあってそれがまだ実現できていなければ、ここにニーズがある。

マーケティングは交換を通してその消費者のニーズやウォンツを満たすわけだ。
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